まいぷれホーチミン編集部
「ベトナム人は主体性がない。」
「なかなか考えて動いてくれない。」
ベトナムへ進出した日本企業の経営者から、このような悩みを耳にすることは少なくありません。しかし、KL Consulting代表のLAM(ラム)氏は、その考え方に疑問を投げかけます。
「私は、人が悪いのではなく、環境が人の行動を変えると考えています。」
日本企業のベトナム進出支援を数多く手がけてきたLAM氏。その原点には、自身が日本で学び、日本企業で育てられた経験がありました。
今回は、KL Consulting設立の背景、ベトナム進出成功の条件、そして日本企業へのメッセージについて伺いました。
「今の私をつくってくれたのは、日本です。」
――まず、LAMさんご自身の歩みについて教えてください。
私は大学へは進学していません。
高校卒業後、父を亡くし、家族を支えるために働き始めました。兄弟も多く、長女だった私は、母を支えることが自分の役割だと思っていました。
最初は日本食レストランで働き、その後、技能実習生として日本で3年間働く機会をいただきました。
当時、日本語はすべて独学です。学歴もありませんでしたし、日本語も決して高いレベルではありませんでした。
それでも採用していただけた理由を後から聞くと、「人間性を評価した」と言っていただきました。
私は、その言葉を今でも忘れていません。
日本では、日本語能力試験N2を取得し、現場作業だけでなく通訳やさまざまな仕事も任せていただきました。
私が今こうして仕事をしている土台は、間違いなく日本での経験です。
だから私は、今でも日本という国に心から感謝しています。
「ベトナム人にも、日本企業にも、それぞれ素晴らしい強みがある。」
帰国後は製造業の日系企業で現場改善に携わり、その後は日系コンサルティング会社で数多くの日本企業を支援してきました。
その中でLAM氏が強く感じたことがあります。
それは、日本企業にもベトナム企業にも素晴らしい強みがあるにもかかわらず、その間にある「見えないギャップ」によって、本来もっと成果が出るはずのプロジェクトがうまく進まなくなっているということでした。
「言葉は通じていても、本当の意図は伝わっていない。」
「お互い真剣なのに、なぜか噛み合わない。」
実は、そのギャップの中にいたのは、かつてのLAM氏自身でした。
だからこそ、日本とベトナム、人と組織、企業と企業をつなぐ存在になりたい。
その思いから、KL Consultingを立ち上げました。
ベトナム進出コンサルティングではなく、「一緒に成果をつくるパートナー」
KL Consultingは、自らを「コンサルティング会社」とはあまり表現しません。
LAM氏は、こう語ります。
「私はアドバイスをする人ではなく、成果を一緒につくる人でありたい。」
市場調査や事業計画を作って終わるのではありません。
経営者と同じ目線に立ち、課題を整理し、現場に入り、改善を繰り返しながら成果が出るまで伴走する。
だからこそ、多くのお客様からは「外部コンサルタント」ではなく、「一緒に事業を推進するパートナー」として相談されることが多いそうです。
本当の課題は、目の前に見えている問題ではない
KL Consultingが最も重視していることがあります。
それは、「本当の課題」を見つけることです。
例えば、「社員が主体的に動かない。」という相談があったとします。
しかしLAM氏は、それを本質的な課題とは考えません。
原因は社員ではなく、
・マネジメントの仕組み
・コミュニケーション
・役割設計
・職場環境
こうした部分にあることが少なくないと言います。
目の前に見えている現象だけを改善しても、本質は変わりません。
だからKL Consultingでは、原因を深く掘り下げ、本当に解決すべき課題を経営者と一緒に見つけるところからスタートします。
「安全な場」が、人を育てる
LAM氏が繰り返し語った言葉があります。
それが、
「安全な場(Anzen na Ba)」
という考え方です。
これは、心理的に安心して働ける環境のこと。
・分からないことを素直に質問できる
・意見を安心して伝えられる
・失敗から学べる
・挑戦できる
そのような職場環境です。
「安全な場とは、甘い職場をつくることではありません。
社員が安心して挑戦し、成長し、成果を出せる組織をつくるためのマネジメントです。」
ベトナム人は学習意欲が高く、新しいことを吸収する力があります。
しかし、失敗を恐れる環境では、その力を十分に発揮することはできません。
だからこそ、人を変えようとする前に、環境を変えることが重要だとLAM氏は考えています。
ベトナム進出成功の鍵は、「組織づくり」にある
「日本の商品は素晴らしい。」
LAM氏は、これまで数多くの日系企業を見てきたからこそ、そう断言します。
一方で、事業が伸び悩む企業には共通点があるとも言います。
それは、ベトナム人を中心とした現地組織が育っていないこと。
日本人社長一人ですべてを管理することには限界があります。
だからこそ重要なのが、現地管理職を育て、ベトナム人チームが主体的に動ける組織をつくること。
事業戦略だけではなく、組織戦略まで含めて支援できること。
それがKL Consultingならではの価値です。
「信頼は、小さな約束の積み重ね」
経営者として最も大切にしていることについて伺うと、LAM氏は迷わずこう答えました。
「本当に価値のある仕事をすることです。」
仕事を終わらせることではなく、お客様に成果を届けること。そのためには、一時的な改善ではなく、本質的な変化を生み出すことが必要です。そして、もう一つ大切にしているのが「信頼」。
「信頼とは、大きな約束ではありません。
毎日の小さな約束を守り続けることだと思っています。」
だからこそ、言葉だけではなく、行動で信頼を積み重ねる。
その姿勢が、長年にわたり多くの日本企業から選ばれている理由なのでしょう。
「日本のやり方を押し付けないでください」
最後に、日本企業へのメッセージを伺いました。
「ベトナムで失敗しないために、一番大切なのは、日本のやり方をそのまま持ち込むことでも、ベトナム人を変えようとすることでもありません。
まずはベトナムという国を理解し、人を理解してください。
そして、日本の強みとベトナムの強み、その両方を活かせる環境をつくってください。」
人が変われば、組織が変わる。
組織が変われば、企業は持続的に成長していく。
KL Consultingは、単なる進出支援会社ではありません。日本とベトナム、人と人、企業と企業をつなぎ、新しい価値を生み出す「伴走型ビジネスパートナー」として、これからも両国の架け橋であり続けます。
編集後記
今回のインタビューは、ベトナム人マネジメントの本質が詰まった、とても学びの多い時間でした。
「ベトナム人だからこうだ」と考えがちですが、LAMさんのお話を聞いていると、結局は日本人もベトナム人も同じ人間なのだと改めて感じます。
人は、信頼され、目的を共有し、安心して挑戦できる環境があってこそ力を発揮します。
ベトナム進出を成功させる鍵は、人を変えることではなく、人が成長できる環境をつくること。その本質を改めて教えていただいたインタビューでした。
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